虐殺器官とはいったい何なのか?

伊藤計劃(いとうけいかく)の虐殺器官というSF小説に出てくる虐殺器官とは具体的に何を示しているのでしょうか。   虐殺器官は2015年にもアニメ化された伊藤計劃の小説です。  

伊藤計劃さんとは?

伊藤計劃さんは1974年生まれ。 がんとの闘病の末、2009年に亡くなっています。  

虐殺器官のあらすじ

9・11以降のテロとの戦いにおり、先進諸国では徹底的な個人情報管理体制によりテロは一掃されていた。   しかし、後進諸国では依然として内戦や大規模殺戮が急激に増加していた。   主人公の米軍大尉のクラヴィス・シェパードはその内戦や大規模殺戮の首謀者を排除する任務に就いていた。   クラヴィスはその後、内戦や大規模殺戮にかかわっているといわれるが、徹底した管理システムをかいくぐり、一向に正体が明らかにならない謎の男ジョン・ポールの調査を命じられ、彼の”女”がいるといわれるチェコに向かう。  

器官とは?

  ジョン・ポールの”女”だといわれるルツィアとはじめて会った時に交わされた会話の中に、題名の”器官”が初めて言及されています。  

「ではあなたは、ことばをどんなものとしてみているのですか。人間の現実を規定するものではないとしたら、ことばにはどんな意味があるんですか」 「もちろんコミュニケーションのツール。いいえ、違うわね・・・・器官、と呼ぶべきかしら」

  ことばは、胃や腸などと同じく、生存適応の産物であると、この作品中では考えられているようです。  

虐殺を引き起こす深層文法

  ジョン・ポールに初めて会った時に、虐殺器官の仮説と元となる理論について、クラヴィス・シェパードは初めて聞かされます。(P.219)  

脳があらかじめ、手持ちの要素を組み合わせて文を生成する仕組みを持っているのに他ならない

 

「その生得的な文生成機能が、深層文法だということか」 「遺伝子に刻まれた脳の機能だ。言語を生み出す器官だよ」

 

「人間がやり取りをする言葉のうちに潜む、暴力の兆候が具体的に見えるようになったのだよ。・・・この文法による言葉を長く聴き続けた人間の脳には、ある種の変化が発生する。とある価値判断に関わる脳の機能部位の活動が抑制されるのだ。それが、いわゆる『良心』と呼ばれるものの方向付けを捻じ曲げる。ある特定の傾向へと」

  この深層文法は、虐殺が起こる予兆としても、その虐殺が起こる地域に発生しますが、逆に、この深層文法を繰り返し語ることで、まったく虐殺の予兆がなかった地域に、虐殺を引き起こすことができます。   ジョン・ポールは、PR会社の立場を利用し、深層文法によって語られた情報を伝播させることで、虐殺を引き起こしていたのです。   つまり、この物語における虐殺器官とは、私たちの脳にある虐殺を引き起こすことができる深層文法をもった器官のことを示しており、だれもがその虐殺器官をもっており、しかるべき刺激によって虐殺が引き起こされるというところに恐ろしさがあります。  

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)